2017年7月26日水曜日

ことり「前略 木漏れ日の貴女へ」

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/21(金) 18:45:20.12 ID:+NyjqKO10


『東京のスクールアイドル、山で事故?』

4年前のその記事は、当時ちょっとした騒ぎになった。

彼女たちはまだ無名だったが、美しい少女たちを襲った悲劇に、世間は同情し興奮した。

怪我をしたのは9人のうち1人だけだった。

事故の際ずっと近くにいたという少女は、引きこもったままついぞ出てこなかった。

本当に事故だったのかと訝る声も少なくなかった。

怪我をした少女は、立ち入り禁止の場所に入り、足を滑らせただけだったと発表された。


少女は意識不明の重体のまま、病院で眠っていた。

記事が騒がれたのはここまでだった。


少女の意識は戻らなかった。

世間は真相がただの事故だったことに落胆していた。


彼女はまだ眠っている。

もはや彼女が世間話の種になることはない。


彼女はまだ眠っている。

数人の影がやせ細った腕にゆらゆら落ちた。



「私ね、一年前に、日本に帰ってきたの」

「もうすぐ戻らないといけないんだけどね。今は夏の終わりだけれど、ロシアって涼しいのよ。……って、こんな当たり前のこと言ってたら、私がポンコツみたいね」

「今日はね、話があってきたの。信じられる? あの娘がお見舞いに来たのよ」

「ね、海未?」

「もう、絵里ったら、人が悪いですよ……」

「……」

「……」

「「くふっ」」


くつくつと押し殺した笑い声が病室を浸し、煙のように消えた。


「ああ、そう、そうだったわね、話よ。話があるの。どこから話そうかしら……」

彼女の長い髪の一房に、金の髪が触れる。


「そうね、ここから始まったのよ。遅すぎるくらいだけれど」






「夏の終わりにね、海未から手紙が来たの」





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